朝日新聞 平成15年9月15日掲載
連載企画「あの日から」
拉致…日朝この1年 


 9月9日、北朝鮮は建国55年記念の式典を平壌で催した。朝鮮人民軍による閲兵式を、金正日総
書記ら要人が見つめる。広場の一角にある外国人招待者席に、非政府組織(NGO)「レインボー
ブリッヂ」の小坂浩彰事務局長(50)もいた。

 本人によると、自分の席から金総書記の姿も近くに見えたという。
 小坂氏は7月、拉致被害者の曽我ひとみさん、地村さん夫妻、蓮池さん夫妻の子ども6人と会っ
て手紙を持ち帰り、一躍注目を集めた。
 この数年間の訪朝回数は17回。現地では北朝鮮の高官と会うことも多いという。その人脈はど
うやって築かれたのか。

 私を子どもたちに引き合わせたのは『北朝鮮の人道支援の最高責任者』。そうとしか知らない。
式典の前日にもホテルで会った。拉致問題をどうするつもりか問うたが、日本語で『解決したい
と思っている』とだけ答えた」

 三重県の高校を卒業後、食品輸入業などをしながら、政治家や警察関係者と付き合いを深めた。
北朝鮮に関心を持ったのは、横田めぐみさん拉致疑惑が浮上した97年ごろだ。「政府は関知しな
いという立場。ならば自分が解決できないかと」
 そう言う一方で、「日朝の交流が活発になった後のビジネスも視野に入れている」と、将来へ
の野心も隠さない。

 00年に発足させたレインボーブリッヂは、活動原資を主に企業から得ている。国交正常化後、北
朝鮮進出を狙う企業は多いという。

 農産物輸入に関心のある食品会社は、キノコの粉末を550万円相当、提供してくれた。約6100
万円相当の中古の土木重機を出した会社もあった。輸送費は約300万円かかったが、業者が負担
したという。

 団体として供与した物資は、通関ベースで3億円分を超える。
 「どこの企業も深い思惑はないが、関係だけはつくっておきたいということだ」
 将来の利権をも視野に入れた支援。そんな微妙な立場に身を置きながら、小坂氏は昨年秋以来、
拉致被害者の子どもについて「元気でいるか確認したい」と要求。今月初めの訪朝の際には「子
どもを日本に早くかえすべきだ」と主張した。

 政府間交渉の行方が不透明な中、水面下で民間団体を通じたメッセージの応酬が続いているよ
うに見える。

 「政府間の交渉にまかせるべきだ」「北朝鮮のメッセンジャーではないか」こんな批判に小坂
氏は反論する。「北朝鮮も政府ルートで出来ないことを民間の私に託す。拉致問題を訴えてきた
から、信頼されたんだ」

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